第9章 大袈裟
「昨夜は、私が大般若さんにわがままを言ってしまったんです」
私が欲張ったから、大般若は私を抱かざるを得なかった。
「わがまま?」
「もっと欲しいって」
とんでもないことを言ってるのは判ってる。
「あれは、俺が聞いたから…」
「決めたのは私」
そうだ。断ることだって出来たはずなのに。
「違うよ。前に言っただろう?君は私たちへの贄だ。拒むことは許されない、と」
「そういうことだな。俺たちが主を感じさせたい、気を遣らせたいと強く思うほど主はそれに抗うことが出来なくなる」
そんなことがあろうか?全て私が望んだことでしょう?
そんな思いを込めて三日月を見つめたが、青い瞳の彼は首を横に振った。
「とにかく無事でよかった。大般若さん以後気をつけるように」
「わかった。すまない」
大般若は酷く落ち込んでしまっているように見えた。だから、
「私はっ」
声を張ると驚いて顔を上げる。
「大般若さんに抱かれて幸せでしたよ」
そう言うと、
「ほんと、俺の主にゃ敵わないや」
漸く笑ってくれた。
「さて、ぬしさまは私と風呂に行きましょうか」
小狐丸が私を抱え上げる。
「あぁ、お尻が出ちゃってるよ小狐丸さん!」
慌てる石切丸に、吹き出す大般若。
「あんたらも主のことになると表情がコロコロ変わるんだな。三条サンはもっとお堅いもんだと思ってた」
そしてこれを使ってくれと自分のジャージを差し出した。
私の腰にそれを掛け、
「私は加州さんに着替えを頼んでくるね」
石切丸が去っていく。
私は小狐丸と風呂場へと向かった。
「あーーー。汗でベタベタだ」
石鹸を泡立て身体を洗いながら言うと、
「小狐が背中を流しましょう」
買って出てくれた。
「私もうずっとここにいようかなぁ」
「なりませんよ、軽々しくそのようなことを口にしては。ぬしさまは10年ほど猶予が必要なのでしょう?」
私が吐いた言霊をすぐさま小狐丸が打ち消した。
「知ってるんだ、10年後の約束」
「えぇ。皆で話し合った折に情報はいろいろと交換しております」
「ねぇ、10年後、私40代半ばになっててさ、すんごいババアかもしれないけど、それでも愛してくれるの?」
「当たり前です。更に言えば今よりの老化はありません。安心してください」
小狐丸は私の身体の泡を流した。