第1章 プロローグ
「大胆って…私いつもこうだよね?」
畑仕事中に採れたて野菜の試食を勧められ、だけど自分は土を触っていて手が汚れているから洗ったものをそのまま食べさせてもらうことは本当によくある。
「そうだね。青江くんは初めてだったのかな?」
確かににっかりはここに来てまだ日が浅く、畑当番で会うのは初めてかもしれない。
「ごめん、にっかりさん。次からは気をつける」
「いや少し驚いただけで、主がそれでいいんなら僕は構わないよ」
恐る恐るもう一粒トマトを差し出してきたから、遠慮がちに口を近づけると、
「…なんだか主を餌付けているみたいだね」
少し口角を上げながらにっかりが言った。
そしてトマトを食べる私の頬を石切丸が濡らした手拭いで拭った。
「この短時間でどうしてこんなに顔に泥がつくの?」
「俺がつけたー」
鍬を振るい始めた清光が私の代わりに向こうの畑から返す。
「どうしてまた?」
「主が泥まみれになったら後で俺とお風呂入ってくれるかなぁって。ねぇ主種蒔いてよ」
淡々と鍬を振るいながら言う清光。
「えー…着替えあったっけ?」
「こないだの持って帰ってないでしょ」
「ちょっと待とうか。この会話は何かがおかしくないかい?」
また清光のいる方の畑に戻り、耕されたところに種を埋め始めようとしていた私との会話に光忠がツッコミを入れてきた。
「今の会話だと加州くんと主は以前にも一緒にお風呂に入ったってこと?」
「うん。そう」
悪びれもせず清光は肯定する。
「あと安定と堀川も」
この種なんのだろう、と思いながら埋めて土を叩く私に、
「本当におかしいですね」
小狐丸がぼそりと言った。
「粟田口の短刀たちならまだしも、新選組の男士たちとなんて」
「んー。短刀くんたち、なんでだかあんまりなついてくれないんだよね。やっぱ出陣あんまりさせてあげてなかったからかなぁ」
以前一緒にお風呂入ろうかって声をかけたけど、逃げるように断られたっけ。
「大丈夫。あいつらに嫌われてても主は俺が愛してあげるから」
というよりは怖がられてる感じだけども。
「加州くん?」
「なーにー?」
「短刀たちに何したの?」
光忠の口元は笑っているのに目力がめちゃくちゃ怖い。
「…安定と堀川と3人で圧力かけた。…っっ!?」
ぼそりと言った清光に、ばさりと土が掛けられた。