第1章 プロローグ
そんな私を見て、
「主って結構生娘みたいな反応するよね」
光忠が笑った。
生娘なわけあるか!30も過ぎて子供がいて、生娘だったら驚きだ!
思わず鶴丸の口癖が頭のなかを駆け抜ける。
ただイケメン、しかも大量のイケメンに免疫がないだけ。
そのイケメンが私に対してからかってるのか面白がってるのかなんなのか知らないが、距離感が近すぎることに対応しきれないだけ。
「はぁぁ」
精神的な疲れを滲ませたため息をつくと、清光が泥だらけの掌で私の頬に触れた。
「ごめんね、喧嘩して」
私のため息を自分たちが喧嘩したからだと捉えたようだ。
「いいよ。喧嘩して感情ぶつけ合うことも成長には必要だからね」
よく考えれば、人型としての身体を得てまだ数ヶ月。
刀として実年齢は長寿でも精神面は幼くて当然なのかもしれない。
「私も謝ります。幼稚な行動をお許しいただけますか?」
小狐丸も言ってくれるが、立ったままなので威圧感がすごい。
「私は別に怒ってないよ。それに謝るのは私に、じゃなくて清光と小狐丸同士でしょ?」
そう言うと、お互いに小さな声で謝罪しあったのが聞こえた。
「ねぇ主、こっちのトマトはもう食べられそうだよ」
割り込んできた声に視線を向けると耕していない方の畑で収穫作業をしていたのはにっかりと石切丸で。
このふたりは広間には来ず直接畑にきているはずだけど、小狐丸と清光のやりとりからを見聞きしていればある程度は理解しているだろう。
「わぁ、美味しそう」
「食べてみるかい?」
近づくとにっかりがプチトマトをひとつ、蔕を持って差し出してきた。
なんの迷いもなくにっかりが持ったままのトマトにかぶりつくと、ピクッと蔕を持っている手が揺れる。
「うーん、採れたてめちゃめちゃ美味しい!光忠、トマトは洗ってそのまま出そうよ!」
「調理はしないの?」
「こんないい素材を調理するのはもったいない」
もうひとつ食べてみたいなぁと、にっかりの持っているかごを見つめていると、
「…っ主は、僕をどうしたいんだい?」
戸惑ったような声をだすにっかり。
「え、トマト食べたいだけ、なん、だけど」
顔を上げるとにっかりが複雑そうに顔を歪めつつ目を見開いていた。
戸惑う私に気付き、
「ははは、にっかりさんは主の大胆な行動に驚いているみたいだよ」
石切丸が笑った。