第8章 矛盾という名の蕾
「鶴丸も主への思いが強すぎるようだな」
口づけが終わり、見事に頭痛は消えたのだが、三日月は私を下ろしてくれない。
「主は俺が嫌いか?」
「…っ」
そう聞いてくる三日月は少し悲しそうな顔をしている。
「俺は天下五剣だからな。無意識に圧を掛けてしまっているのだと、小狐丸に言われた」
言いながら三日月は歩き始める。私を抱き上げたまま。
「怖がられているのも判っている。だがそれもまた仕方のないこと。そういった存在がいなければまとまらないものもある」
三日月は自らその役を買ってでているとでもいうのだろうか。
言いながら連れて行かれたのは三日月の部屋だった。
「あの、三日月さん私仕事が…」
「今日の近侍は長谷部であろう?ならば任せておけ」
部屋に入り、そのまま畳の上に胡座をかいた。
下ろしてもらえるのかと身体を捩ったが、穏やかに微笑んでいる三日月の力には勝てず、
「しばらくこうしておれ」
仕方なく三日月にしがみつくことにした。
会話もない、静かな時間が過ぎる。
正直居心地が悪い。
「昨夜のは、不快だったか?」
「え?」
突然三日月が口を開いた。
「あのような抱き方はまずかったのかと少し反省しておるのだ」
「…あれは三日月さんが私に気をつかってくれたんでしょう?」
去り際の言葉からそれが窺えたのは覚えている。
「だがな、あのあとからお主の気の乱れが酷くてな」
そうか。私の感情の乱れも全てそういうものになって現れてしまうのか。
「ごめんなさい。気をつけます」
乱されないようにやはり私も感情をコントロールしていかないといけないようだ。
「主、聞いてもいいか?」
「何を、ですか?」
「不快であった理由、だ」
「…三日月さんには関係のないことなので」
なんて表現していいか判らず、つい突き放すような言い方をしてしまった。
案の定、また悲しそうな顔をする。
「じじいには話したくもないか」
ズルい。そんな言い方。
「あちらの世界での、問題です」
「そうか。じじいに話してはみぬか?楽になれるかもしれんぞ?」
聞かれて、ぽつりぽつりと先ほど鶴丸の腕の中で泣きながら頭のなかを駆け巡った記憶を三日月に溢した。
「そうであったか。事情も知らずすまないことをした」
「いいんです。三日月さんが謝ることじゃないから」