第8章 矛盾という名の蕾
「主、すごいんです。最近の出陣結果を見てください!!」
長谷部が得意気に資料を並べ始める。
「男士たちのレベルの上がり方が普通ではありません!」
そう言われて見ると、確かに。
手入部屋現象だけではなかったらしい。
「こんなデータだけでなく、男士たち本人の顔も何もかもが力と自信に満ちあふれているんです!すごいことです!」
長谷部は熱くなりすぎてすごいしか言っていない気がする。
「わぁ、ほんとだねぇ」
「もちろんこの長谷部も、でございます。この調子ですと、特別金がかなり支給されるかもしれませんね」
「特別金?」
「はい。普段の給金とは違う報酬があるのです。年に2度ほど出るのですが、働きによって変動があるのです」
ひょっとしてボーナスみたいなものかな?年に2回って言ってるし。
そこへ、
「主失礼するよ」
襖が開いて光忠が顔を見せた。
「待ってても来ないから昼食持ってきたよ」
「主、食事がまだだったのですか?申し訳ありません。俺が無理矢理つれてきたばかりに…」
気づいた長谷部が落ち込む。
「気にしないで!昼寝してた私が悪いんだから…」
ということに長谷部の中ではなっているので話を合わせておかなきゃだ。
「しかしなぜあのような離れに?」
受け取った食事に手をつけようとしていた私に長谷部が聞いてくる。
「主はね、新しい畳の香りが好きなんだよ」
また光忠が適当なことを言う。
こうしてその場凌ぎの嘘を繰り返していっていつまでもつだろう。
必ず綻びてしまうときがくるのではないだろうか?
それとも秘密を知る男士たちが全員で口裏を合わせて、圧力と権力で捩じ伏せるのだろうか?
これだとどちらにしてもブラックな気がしてしまう。
「そうでしたか」
「そう。最近頭が痛くなるときがあってね、畳の香り嗅ぐと和らぐから…」
全部を嘘にするよりはマシかとわずかに本当のことを混ぜておいた。
「じゃあまた食器とりにくるから。長谷部くん、行儀が悪いかもしれないけど、食事しながら仕事するの、大目にみてあげてね」
光忠はそう言い残して出ていった。
「…どうぞ、食事を続けてください」
少し不満気だったが食事しながら、というのを許可してくれたから、私も素直に従うことにした。