第8章 矛盾という名の蕾
目覚めたのは座って抱き締めてくれている鶴丸の腕の中だった。
「鶴、さん」
「起きたか?」
抜け出そうと身体を捩ると、腕に力を込められる。
「まだここにいろ」
「…けど…鶴さんしんどいでしょ?」
「俺は平気だから」
着物はきっちりとまではいかないが元の状態近くまで戻されていた。
そして頭が痛む。
眠ったというより意識がなくなったような形だったから痛みが出るまで寝落ちるのを我慢できなかった。
「主、すまん」
「なにが?」
「無理をさせた」
「いーよ。それが審神者の仕事ってね」
ふざけた風を装ってはみるが頭が痛くてどころじゃない。
私の声に力がないことに気づいたらしい鶴丸が、
「どうした?」
優しく聞いてくれる。
「頭が痛いの…」
「あぁ、三日月たちが言ってたやつか?」
そうか、もうみんな知ってるのか。
「そー。昨日光忠と解決法は見つけたんだけど、今日は失敗しちゃった」
鶴丸の胸元にしがみついている手に痛みを逃そうと力がこもる。
「無理して喋んなくていい」
「…ぅん」
ガンガン襲ってくる痛みを逃したくて、鶴丸の着物を握りしめた。
「三日月が必要か?」
「…鶴さん、忙しい?」
「いや、俺は非番だから暇だが」
「なら、こうしてて、欲しい」
凄く凄く痛いけど、鶴丸の腕の中は温かい。落ち着く。
「そうか?」
三日月に頼りたくない自分もいた。
何もかもを見透かされているようで、前にも側にも行きたくない。
それに昨夜。思い出すだけでも涙が出そうだ。
半日に一度、となると作業感がでてしまうのはどうしても仕方がない。
仕事だと割り切るしかないのも判ってる。
だけど、どうしても…。
目頭が熱くなってきた。
「そんなに痛むのか?ならやはり…」
「やだ。三日月さんは、やだ。鶴さんがいい」
「なにがあった?」
その質問には答えられない。答えたくない。
10年程前まで遡る記憶。
二人目不妊で悩んで疲れていた私たちを思い出してしまうのだ。
子作りのための作業。そのためのセックス。
イくとか前戯とかムードとかもうそんなのは関係なかった。
ただ挿れて出すだけ。妊娠するまでその繰り返し。
昨夜の三日月との行為は、そのことを思い出させるのには充分すぎた。
「…泣きたけりゃ泣いてもいいぜ」
優しい声が沁みる。