第8章 矛盾という名の蕾
その日の昼前。
近侍の長谷部と部屋で仕事をしていると、
「失礼するぜ」
すぱぁんと心地よい音を響かせて鶴丸が襖を開け放った。
「なんだ、鶴丸」
「主借りてくぜ」
「はぁ?主は今仕事中だ。見れば判るだろう」
「こっちは緊急を要するもんでな。大人しく貸せ」
そこまで聞いて、鶴丸の意図が判った。
「ごめん、長谷部。ちょっと休憩しよう。再開は午後の…うーんと、また呼ぶ」
時間の指定は出来る自信がなく、曖昧になってしまったが、
「主!?…判りました。主命とあらば」
そう言って長谷部は引き下がってくれた。
全く扱いにくいんだか扱いやすいんだか。
鶴丸は私の手を取り立ち上がらせると、
「じゃ、主借りてくぜ」
私を連れて審神者部屋から出た。
「どこ行くの?」
「驚きの場所だ」
そう言って鶴丸は庭に降り、外を歩いていく。
少し歩いた場所にあったのは離れの茶室。
「誰も使ってないみたいでな、ちょうどいいと思ったんだ」
戸を開けて中を覗くと、使ってないだけあってか新品同様の綺麗さだった。
まだ畳の匂いが新しい。
「鶯丸とかがいりゃ必要なんだろうがな、なんせうちにはまだ居ないし」
「鶯、丸?」
「あぁ。茶飲みのじいさんだ。そのうち会えるだろうが、今は…」
茶室に上がり込むと私を畳に押し倒した。
「ねぇ、順番とかなにか決まってるの?」
「三日月が出陣計画とかと見合わせて決めた。すまんな、主の気持ちは全く考えてなくて」
私に跨がり腕をついて見下ろしながら言う鶴丸。
「やめたいか?」
「本音を言えば、少しやめたい。怖い」
怖いんじゃない。痛くて苦しいんだ。言葉にはできなかったけど。
「俺がこんなに主を想っていても、か?」
「…ズルい」
「ズルいのか?本心を言っただけなのに」
「うん、ズルい」
どれだけ怖くて痛くて苦しくても進まなきゃなんない。
だから私は鶴丸の首に手を掛け引き寄せて口づけた。
「おっと、不意討ちとは驚いた」
唇を離した私にそう言い、
「今日も驚きを与えてやるぜ」
今度は鶴丸からの熱い口づけ。
私も鶴丸の髪に指を差し入れぐしゃぐしゃにしてやりながら舌を絡ませた。
「キスだけで済めばいいのに…」
ぼそりと言うと、
「俺はそういう訳にはいかないが?」
私の着物を脱がせながら返してきた。