第8章 矛盾という名の蕾
翌朝。
約束通り清光が私に着物を着付けに来てくれた。
今朝は安定と堀川の襲撃はなかった。石切丸がなにかうまく説明してくれたのだろう。
「かわいいよ、主」
慣れた手つきで着付けてくれた清光は、少し離れて私の全身を確認し、そう言ってくれた。
「少しずつ覚えるから教えてね」
「覚えなくていいよ。いつも俺が着付けてあげるんだから」
にこっと笑って私に口づけた。
触れるだけのキスを何度もしていると、
「主、入りますよ」
そう断りが入り長谷部が姿を見せた。そして案の定、
「加州貴様!朝から主に迫るとはどういう神経してるんだ!?」
どすどすと音を立てて部屋に入ってきた。
「何ー長谷部ヤキモチ?」
「違う!加州が主とそういうことをしているのが不快なだけだ」
「ヤキモチじゃん、それ」
べぇっと清光が舌を出した。
「とにかく、本日の近侍はこの長谷部が務めさせていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
わざわざ挨拶にくるあたり、長谷部は真面目だ。
「では主また朝食後に参ります」
そう言って出ていった。
「それ言いに来ただけ?」
「みたいね」
思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
「じゃあ私は朝食の手伝いに行ってくるね」
「りょーかい。俺も今日、主に愛されるために出陣してくるからねー」
私は厨へ、清光は自分の部屋へと足を向けた。
「おはよー」
「主おはよう」
「おはようございます!熱はもう大丈夫ですか?」
早起き光忠と堀川が既に調理を始めていた。
「うん、もう平気。ありがとうね、堀川くん。昨日お礼全く言えなかった」
「それならー、キスしてください」
「なんで」
相変わらずこのコは爆弾投下してくるなぁ。
「だってえっちするのはダメなんでしょ?昨日初期刀の清光さんだけの特権なんだって石切丸さんから聞きました。でも逆に言えばそれ以外はいいってことですよね?だから」
真っ直ぐなのかなんなのか。堀川らしい笑顔でそう言ってくる。
そして石切丸なかなかいい表現で丸め込んだな、と感心してしまった。
堀川の向こうで光忠が複雑そうな顔をしている。
だよね。ウソだもんね。
「はーやーくー」
堀川は目を閉じて口を突きだしてきているし。
「僕はいいと思うよ」
光忠に言われ、仕方なし堀川に触れるだけのキスをした。