第6章 美しい悲劇
みんなはあのあと散々酒を呑み、だけど私は清光にうまく調整されていて今日はあまり呑めていない状況だった。
ほろ酔い程度で留まっている私に清光は耳元で、
「あと部屋に行くから」
囁いて離れる。瞬間心臓の鼓動が早くなった。
「あー、なんか呑みすぎたかも。お水呑んでくるね」
立ち上がり厨に向かおうとすると、
「大丈夫?ついていこうか?」
私の足取りを心配して光忠がついてきてくれた。
「なんかもー、変なことになっちゃって誤魔化したくなって呑みすぎちゃった」
水を飲みながら言った私に、
「後半ほとんど呑んでなかったじゃない」
光忠が呆れたように言う。
「バレてた?」
「うん。今日は加州くんなんだなって思いながら見てた」
「言い方悪いけど、実験開始ってね」
清光の口癖を真似ると、
「だから石切丸さんあんなに焦ってたんだ」
「そう。さっき清光が石切さんにここに居られる時間が加算できるのか聞いてね、実験とか言っちゃったから。だけど私もみんなといたいってのは本当だし、試してみたいなって思うんだよね」
光忠には言わないが10年も待たせる契約をしてしまったんだ。
だからその分の覚悟とか感謝とか、伝える手段になればと思った。
「そっか。じゃあもう部屋に帰ってる?広間戻ると脱け出しにくくなるし、鶴さんとかの邪魔が入りそうだし。僕がみんなにはしばらく経ってから主は寝たって言っとくから」
「ありがと」
「今日のはツケとくからね」
言って光忠は私の頭を撫でてくれた。
私は広間でまだ呑んでいる男士たちに気づかれないようにそっと厨から出て審神者部屋にひとり向かった。
部屋に戻って、さっき脱いだ服を片付けたり、布団を敷いたりしながら清光が来るのを待った。
明日一度少し戻って着替えとか持ってきておかなくちゃ、なんて考えながら。
そういえばさっきどうして三日月はあの三人を呼び出してたんだろう。
やはりあの人の考えてることは判らないが、今日は暴走して妙なこと言わなくてよかった、なんて考えていると静かに襖が開いた。
「主…?」
暗闇のなかで私を探す声。
「起きてるよ」
返事をすると、
「なんで真っ暗なの?」
聞いてくる。
「私はもう寝たってことになってるからね」
照れ隠しにちょっとおどけて言うと清光は、
「そっか」
笑って近づいてきた。