第6章 美しい悲劇
「あ、主?」
意味を知っている石切丸が焦る。
「今聞いただろう?私達に対してそういった意思を持つ言霊を使ってしまうと…」
逃げられないんだよね、多分。
なんとなくは判ってた。
だけどこれは私の覚悟。
「判ってます。とんでもないこと言ってしまったのも。でも、私もどれだけできるのかやってみたい」
方言を収めて石切丸に言い切ると、
「よいのではないか?主の望みならば」
三日月が口を挟んできた。
このなかで、私の先ほど読まされたことの意味を理解しているのは、清光、石切丸、光忠、鶴丸、小狐丸と三日月だけだ。
「大般若長光と一期一振それからにっかり青江。後で俺の部屋に来い」
三日月が召集をかけ、また酒に口をつけた。
そして意味がわからないなりに堀川が、
「主さん、ひと月もずっといられるんですか?」
「いや、わかんないんだけどね」
途中で途切れる可能性のほうがどう考えても大きい。
「僕嬉しいかも!!今までは主が夕方になったら帰っちゃってたから結構さみしかったんだよね。期間限定でも凄いって思う!」
堀川と安定は純粋にこの状況を喜んでくれ始めた。
「主、ホントに大丈夫なのか?」
聞いてきた鶴丸に、
「いや、言った手前無理だと思う」
ぼそりと返すと
「その日本語は何かおかしくなってるよ」
光忠が笑った。
「無理はしないでね?」
「うん。まぁ呑みさん」
へらっと笑って光忠に酒を勧めると、
「僕も主のその喋り方好きだよ。かわいいと思う」
注いだ酒を喉に流し込みながら言った。
「おんしがおってくれるっちゅうだけでここはまっこと明るくなるきに。わしも嬉しいぜよ」
「そうだな。おれも嬉しい」
陸奥守と長曽祢も受け入れてくれた。
「この本丸は主の力で回ってるっていう確固たる証拠だとは思わない?今のみんなの言葉」
「うん。なんか温かくなるね」
清光に言われてそう返すとまた後ろから腹に抱きつき膝で身体を挟んできた。
「だからそれ恥ずかしいって」
「もうあの喋り方やめちゃったの?」
「今日綻びたからたまに出ちゃうと思うけど、基本はこっちで…」
みんなには方言で喋るより標準語の方が慣れてしまっている。
「そうなのか。俺も好きだったがな」
山姥切が言った。
「ほらね、だからたまに、に期待しとくね」
清光が私にそう言った。