第1章 プロローグ
「そう、だったね。光忠との約束は守らなきゃあ」
無理やり唇を引いて畑の様子を見に行こうとする私の二の腕を掴んで、
「今朝堀川くんに抱き締められて真っ赤になってたっていうのに、実は主は鶴さんとキスするような関係だったの?」
片目でしっかりと私を捉える。
「…ちがぅ」
「違うって、何が?」
「…私は結婚してて、子どももいる。不倫は大罪」
僅かなことでも大きく晒されてしまう世の中。
「だけど、ぅん。…違わない」
力を込めて光忠の視線から逃れた。
「さっき…鶴さんと…清光とも、キスしてしまって…」
どうしよう。このまま終わらせるつもりだったのに、一度限りの事故にするつもりだったのに、鶴丸に事を大きくされた感がある。
「ねぇ主、何を悩んでいるの?」
「…ババアが節操なしなこと」
「ははっ。どうせどちらも主からじゃないんだよね?加州くんも鶴さんも、主が日中ここに来て審神者し始めて、もう何ヵ月か経って、我慢の限界だったんじゃないかな?僕たち刀剣男士は元々顕現してくれた主のことを愛すべき対象として慕い続けるって性質があるみたいだし」
光忠が教えてくれた。
「物だった僕たちが人間の姿として肉体を得て、目の前にはかつての主たちとは違う、言葉も交わせる主がいて、そばには同じような感情や経験を抱いてる仲間がいる。だから主のことを愛し始めて触れたくなるのは当然のことなんだと僕は思うんだけど」
もちろん僕も同じだよ、と光忠は私の腕を引いて胸に収めた。
「聞こえる?僕こんな風に心臓がドキドキ早く音をたてるのを知ったのも主と出会ってからなんだ」
「…聞こえ、る」
確かに本体は刀だという彼の胸からはトクトクと心臓の音が聞こえてくる。
「それから、嫉妬、というものもね。これは人間じゃあなくてもある感情らしいけど」
確かに動物なんかでも嫉妬をすることはある。
「毎朝主が加州くんに抱き付かれてるのを見て思う。今朝は堀川くんと鶴さんにも」
「そう…だったんだ」
「うん。なかなか収めておけないものだね、こういう感情って。僅かでも綻びると堰を切ったように溢れ出すんだね」
抱き締めたまま右手で私の頬を包んで顔を上げさせる。
また光忠の目に捕らえられてしまった。
そのまま光忠が優しく私の唇を塞ぐ。