銀の鳥に幸せのトリガーを....【ワールドトリガー】
第13章 残された心たち
そこは数日が経過したというのに、まだ赤茶色の血の道が敷かれており、“ああ。ここでアイツが闘っていたんだな。"と悲しくなった。
「海影...お前にとって俺たちはそんなに頼りねーのかよ。」
ポツポツと雨が降り出した。
当たりが暗くなり、あの日の大規模侵攻を連想せる。
まるで出水の心を表すようにザァーザァーと降り出した雨がすっかり小さくなってしまった出水の背中を濡らす。
「出水。」
「三輪....」
「傘ぐらいさしたらどうだ。風邪ひくぞ。」
どこか呆れた様子で三輪はそう言うと、自分の指していた傘を差し出した。
しかし出水は三輪の方向を見向きもせず、血の道を見つめていた。
血の道は雨に晒され、だんだん滲んでいくとドロドロと溶けだして、流れていく。
「これが消えてたら、アイツがここに居たって証拠なくなっちまうな...」
「くだらないこと言ってないで、こっちに来い。風邪ひくぞ。」
そう言って呆れた様子の三輪が出水の腕を掴み本部の入口に連れ込むとコンビニで買ってきたのだろう、サンドイッチと暖かいコーンスープが入った袋を出水に突き出した。
「三輪.....今は1人にしてくれ。」
「それはできない。。」
「なんでだよ。」
「それがアイツの頼みだからだ。それでそんなに思い詰めてどうした。」
「...ちょっとな。」
そういうと出水はつい数分前の出来事を思い出した。
それはちょうど城戸の家を出た時まで遡る。
───数分前
「出水...お前に言うか、迷ったんだけどさ。海影。連れ去られる時、お前にごめんね。って言ってたんだ。」
柄にもなく気まずそうにする米屋が呟いた。
「ごめんね?」
「俺には意味が分からねえけど、ここを握りしめて何度もごめんね。って言ってた。」
米屋が指し示した場所は出水が挙げたネックレスがある場所だったのだ。
『【大丈夫。絶対に無茶しないから!】』
『【公平。来年もクリスマスデートしようね!】』
頬を赤らめ嬉しそうに笑う海影の顔が不意に思い出される。
ああ。来年、もう海影とクリスマスデートも初詣も行くことができない。
アイツが隣にいた当たり前の日常が消えたことを理解した出水は顔面蒼白となり、その場にへたり込んだのだった。