第72章 mew
カカシの命令に、パックンら八忍犬は素早く八方へ散った。
彼らは追跡のプロだ。そしてその信頼も高い。
だがカカシの胸は、心臓が鼓動するたびに小型のナイフでも突き刺されているかのようにズクリズクリと痛んでいた。
目の前から突然、大切な人が消えてしまった恐怖。
彼女が今どこで何をしているのか全く分からなくなってしまったことへの焦り。
それは経過する時間と共に段々と大きくなって、何も分からないさきをちゃんと見てやらなかった自分に対しての責任と後悔が波のように押し寄せてきた。
「なんて顔してんだい」
「…え?」
「そのマスクで顔が見えないからと言っても、アンタは表情に出やすいんだねえ。…あの子が心配でたまらないんだろう?」
「まあ、そうですね。それに…自分に責任も感じています。」
「お前さんが気負いしてどうすんだい。
大丈夫、きっと何処かにいて無事だよ。弱い忍には見えなかったさ。何かあっても上手く対処できる能力はあるだろうよ。
忍犬たちから合図があったら、急いで迎えに行っておやりよ。彼女もそれで安心するさ…」
「…ええ」
感情が表情に出やすいことは、自分でもよくわかっていた。
このマスクは、忍として生きていく上でそんな自分を隠さねばと、幼い頃から身に着けてきたもの。
しっかりと覆われ、隠れているはずの表情…しかしそれを読まれてしまうほどに自分は今、動揺しているということだ。
(さきも顔に出やすいが…オレも人のことを言えないな)
そしてこんな時だというのに、顔に出やすいという彼女との共通点にまた気付かされる。
(結局は惚れた者負け…ってやつだな、こりゃ)
カカシは低い天井を仰ぎ見た。
頼むから無事でいてくれ…と願いながら。