第72章 mew
さきはその姿に目を奪われた。
白く、美しい毛並み。
ガラス玉のような大きな瞳。
口許から僅かに覗く歯茎は鮮やかな桃色。
体や顔の至る所にある傷跡は大きく、まるでそれは彼の勲章のようにも見えた。
『…綺麗な猫』
「…は?」
見たこともないほど大きな猫はさきの心を鷲掴みにする一方だ。
まるで自分のことを珍しい宝石…もしくは一度見たら忘れることが出来ないような絶景を目の当たりにしているかのように、感動と興奮の入り混じる瞳で見つめる女。
数百年生きてきた中でもなかなか珍しいタイプの人間に、流石の猫又も狼狽えた。
「…綺麗?この猫又に向かって…まあ良い。その猫耳は猫バアのものだろう。人間が猫と会話するために使用するための代物…一体何の用ニャ。」
『あ…えっと、なんだかすごく申し上げにくいんですけど…』
猫又の魅力に惹かれてしまった手前、猫を契約したいなんてことをいきなりだなんて言いにくい。
ペットショップじゃあるまいし。
ピンポイントで用のあった猫又のいる場所まで飛んでこれた自分の運の良さには拍手を送りたいが…と、質問の回答に渋りを見せていると、猫又は大きな溜息を吐いた。
「お前、忍になってどのくらいになるニャ?こんなに緊張感も殺気もない忍は初めてニャ。そのくせこの城に気配もなく侵入してくる…まるで猫みたいだニャ…」
…果たしてそれは褒め言葉としてとらえて良いものなのか。
さきは複雑な思いで、ひとまず『ありがとうございます』と礼を言った。
「その額当て…木の葉の忍かニャ。…うちはの小僧は元気にやってるか?イタチの弟の…名は何と言ったかニャ」
『サスケくんのことですか?』
「ああ、そんな名だったニャ。知り合いか?」
『ええ。私の班員の子です。以前、あなたにはお世話になったそうで…ありがとうございました。』