第5章 私の先生、初めての生徒
カカシは、一足先に家を出たさきが忘れて行った弁当の袋をやれやれと持ち、彼女が色違いのお揃いだと言って作ってくれた手編みの茶色いマフラーを巻いた。
あれから俺は、彼女の指導を務めている。
真面目で真剣なさきは飲み込みがはやく、教えるのも楽だった。
オレがいる日は殆どおぶって帰ることになるけど...それがオレの楽しみでもあり、癒しでもある。
同期のアスマと紅にその様子を何度か目撃され、後日、「お前もようやくか」と揶揄われたこともあった。
(ま。でも確かに...)
彼女に対する思いが、ほかの仲間に対する思いとは別のものになりつつあることは、随分と前から感じていた。
そしてそれに気付いてからは極力それを本人に知られないようにも努めてきた。
彼女が生きるための道を作ってやらなければならないということが何よりも最優先だからだ。
つまり、彼女を一人前の忍に育て上げなければならないということ。
季節は、さきが嫌いだという冬になった。
せめてさきの心が寒くならないようにしてやりたい、とカカシは思う。
(......そういえば来月はさきの誕生日だったな。)
少々狭くなってきた部屋を見つめながらそんなことを考える。
「ふむ......と、また遅刻しちゃうな」
怒ると怖いからな、奴は。と、彼女のむっつりと口角を下にし、柔らかな頬を膨らませた表情を思い浮かべて目を細め、瞬身の術でさきが待つ演習場へ向かった。