第5章 私の先生、初めての生徒
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―――――― こちらへ来てはや数ヶ月。
大好きだった夏はとうに去り、はぁっと吐く息は白く、耳が微かに赤く染まる。
朝の冷えた空気が上着を着ていない背筋を撫でる。
……あぁ、寒い。
さきの“大嫌いな冬”はすぐそこだ。
カカシによると、例年よりも気温が低く、早い冬とのこと。
たまに元の世界が気になって、気分が浮き沈みする夜もあったけど、人間の慣れとは怖いものだ。
親友と会わない毎日も、花に水をやれないことでより明確に自分を戒めることのできない毎日も、カカシとさきのどちらか一方が先に家に帰っていて互いに互いを待つ毎日も、もういつの間にか、当たり前のようになってきていた。
何度か御神木を見にいって、触ったり話しかけたり色々してみたけど何も起こらなかった。
「さき、寒いでしょ。そろそろ部屋に入りな。 コーヒー入ったから」
『あ、うん。 ありがとカカシ』
部屋の窓から声を掛けられ、化粧を終えたまま外へ出ていたさきは、朝の支度を始めなくてはと前髪を止める柔らかい髪留めを外しつつ部屋に戻る。
さきは、何故かいつもより今年の冬が暖かく感じていた。
まだ季節が夏だった頃、いつまでも居候の身では居られないと、新しく部屋を借りようとしたのだが、彼は随分と居心地よく、そばに置いてくれた。
おそらく、暖かさの理由の大半は、このカカシになると思う。
『ううう~さむいいいっ』
体を震わせつつ小走りにキッチンへ入ると、「はい」と胸の高さにピンクのマグを差し出された。
もう一方の彼の手には、グレーのマグ。
いつの間にか自然とお揃いの物が増え、ここに来た時にはさっぱりとしていたこの家も、私のせいで物が増え、少々手狭になっていた。