第64章 通過者と棄権者と
未だ不安な気持ちが押し寄せる中、カカシと共に、第三の試験の予選会場へ向かう。
割と落ち着いた表情を見せるカカシとは違い、さきの表情は強ばったままだ。
そこへ向かう上忍や中忍の靴や衣擦れの音や、小さな話し声が静かに響く廊下。
大蛇丸の騒動の件でその空気は少し重く、それに押されるようにしてさきは目線を下に落として歩いていた。
その時、さきの目の前に突然、真緑色の何かが出現した。
もうあと一歩足を踏み出していたら、ぶつかっていたかもしれない距離。
驚いてパッと顔を上げると、黒くツヤツヤのおかっぱ頭と、まつ毛と太眉が印象的なあの顔が、さきの視界いっぱいに広がった。
「おっ!久しぶりだな二人とも。なんださき、元気がないんじゃないのか??青春パワーが足りないぞ!」
『わぁぁガイ?!』
たまたま近くを通っていたガイがさきらに気付き、俯いたままのさきの目の前に突然現れたのだ。
不注意だった自分も悪い…とは思うが、あまりの近さにびっくりして、思わず体が仰け反る。
「ガイちょっと…驚かさないでやってくれる?距離も近いのよお前は…」
カカシがトン、とガイの胸の辺りを押し、1歩2歩と後ろに下げる。
ガイは中忍試験が始まってからというもの、班員の合格を祈願して、御百度参りをしていたらしい。
…まあなんてマメなんだ……。
カカシに少し冷遇されているガイは、周囲のこの独特な緊張感の中でも、いつも通りのこの感じを保っている。
…マイペースなのか鈍感なのか、もはやなんなのか。
彼にも事の詳細はきっと伝達されてるはずなのに、相も変わらず人の5倍はエネルギーに満ち溢れていた。
『ふふ…なんか、ガイ見てると元気でるよ!ちょっと…見習わないとね…!まーちょっと近いけど!』
それが彼のいい所でもあるんだけれど。
「そうだぞさき、下を向いて歩くな!青春は下には落ちていないぞ。目の前にあるものを掴むしかないからな!」
「はいはいわかったから 早く行こうよ…暑苦しいからさ」
本当に暑さにグッタリするようなカカシの表情にクスクスと笑みをこぼすさき。
もっとおおらかな気持ちで何事にも向き合った方がいいのかなって、そんな気がして、笑えてきた。