第60章 試験官のお仕事
「いえね…赤い血を見るとついウズいちゃう性質でして。
…それに私の大切な髪を切られたんで興奮しちゃって…」
どうやら先ほどアンコが投げたクナイが、長い髪をかすめたらしい。
とても普通の人間とは思えないほど異様に長いその舌を、シュルルと音を立て口内へ戻していく様子を、さきは眉間に皺を寄せて見つめた。
(……あんまりええ気がせん人やなぁ……一体どこの受験者だっけ…)
「悪かったわね」
さきの怪しむ気持ちとは裏腹に、アンコがひと言詫びると、意外にあっさりと自分の仲間の元へと戻っていった。
(ホンマに髪の毛切られて逆上したのと、血が好きってだけ…ってこと?にしてはあの殺気……なに、この人)
モヤモヤした思いでいるさきの背を軽く叩いたアンコは、更に楽しそうに目を細めた。
「ってェ!!さきの姉ちゃん?!こんなとこで何してんだってばよ?!」
「ああっ!?さきさん!何で?!」
「暫く見ないと思ったら…こんなとこで何してる」
突如、三人の声がさきに向けられた。
数日ぶりに、突然三人の目の前に姿を現したさき…
その場所がこの試験会場前で、オマケに先程までの変な空気…
色々情報が錯綜するのもわかる。
さきは七班の三人から一気に質問攻めにあってしまった。
でも、ここで会えたのは本当に嬉しい。
さきは彼らのその声を聞くなり、コロッと人が変わったように表情を変え、ふわりと彼らに笑いかけた。