第59章 見送り
「ハイハイわかったよ…こう?」
カカシは、ニィ~とマスクで見えもしない口角を上げ、さきの希望通り"笑顔"を作る。
不満げに口を尖らせるさきは、『違う、そうじゃない』となかなかに注文が多い。
彼女には口布の下が透けて見えてでもいるのだろうか。
『大体、カカシは目力のオンオフ激しすぎ』
「ずっとオンだとヤバいでしょ…」
さっきまでカカシのことを褒めてたと思いきや、今のはダメ出しではなかろうか。
ズイズイと近づいて人の顔で遊んで、それはまぁ楽しそうだ。
だが突然、ピタリとその手が止まり、声のトーンが少し下がった。
『ねぇ、カカシ…』
「ん?何?」
『この間はごめん。夢で目覚めた時のこと。…彼の夢を見たってこと、もう分かるやろ…?
起こしてしまったし、手握って付き合ってもらって…ごめんね』
カカシは、さきが突然何を言い出すかと思ったが、なんだあの夜の話だった。
カカシはさきのあの行動や、夢で魘される気持ちも分からなくないし、過去を忘れて欲しいとか、そんな彼女が嫌だとか、そんな事は微塵も思っちゃいなかった。
寧ろ、自分に話してこようとしないという事は、自分はまだそこまでの存在にはなれていないんだろうと…そう思っていたから、謝られる筋合いはこれっぽっちもなかった。