第54章 悪夢(ゆめ)
(――――――なに…?今の夢。)
誰かが自分を呼んでいた。
暗くて深い闇の中に、ポツンといる私に。
そして何かを話していた様な気がする。
でも、それは聞き取れなくて……
そして、さきは思い出した。
自分の夫だった彼の遺体が、ゴロリと横たわる景色を。
『…っ』
以前はよく、夢を見た。
悪夢ばかり…それも夢と思えぬほど鮮明な光景が何度も何度もフラッシュバックする夜が続いていた。
どうしても頭から離れない時期もあって……しかしそんなことも思い出さなければいけないほどに、暫く症状は治まっていたのだ。
――――――なのに、なぜ。
さきは呼吸を整えながら過去に見た悪夢を思い出した。
彼だけじゃない。
父や母の死んだ姿も夢に出てきたこともあった。
――――――…幸せを望んでいる私に対する罰なのか?
今の充実した生活は、私に値しないものだ、と。
自分のことを絶対に忘れるなと…健太が……