第54章 悪夢(ゆめ)
「……!…さき! 大丈夫か?!」
『…はぁっ!!はぁっ…!はぁ…っ』
さきは、夢か現実か、自分の名を何度も呼ぶ声にびくりと体を震わせ、文字の如く勢いよく飛び起きた。
耳につくほど肩を強張らせ、呼吸は声を漏らすほどに乱れに乱れる。
大きく体が上下するたびに、ぽろぽろと大粒の涙が目から零れ落ちた。
(ただ事じゃない…PTSDの症状か…?)
じっとりと汗ばむさきの震える背を、カカシはゆっくりと擦った。
「…悪い夢か?」
カカシは手を止めることなく、そっと優しく問いかけた。
暖かい手
優しく低い甘い声
―――――― 生きている人の感触
さきは自分が夢を見ていたことを認識し、カカシの存在そのものにとんでもない大きな安堵を感じた。
『はぁ…っはぁ…っ』
さきは額を片手で支え、なんとか呼吸を整える。
カカシの質問には、ウンウンと小さく数回頷いて答えるのが精一杯だった。