第54章 悪夢(ゆめ)
さきは額から手を外し、ゆっくりと自分の隣に視線を移した。
心配そうな顔をこちらに向ける、とても大切なカカシが、そこにはいた。
『…もう……大丈夫…ごめん』
朝になると、カカシだけじゃない。皆もいる。
のうのうと生きているなと叱っているのか?
もっと、苦しみながら生きるべきだと。
『~~っ……』
さきは熱い涙が涙腺に勢いよく押し寄せて来るのを感じた。
(―――――― いけないの?…やっぱり…)
あなたがいない私が、幸せになっては。
「…さき、苦しいなら話せ」
カカシが何かを察し、優しくさきに声を掛ける。
返事の言葉に、詰まった。
いったい何を話せばよいのか、まったくわからなかった。
暫くの沈黙が流れ、さきは、やっとの事で声を絞り出した。
『……花…に……水を……』
カカシは驚きもせず、何故かとも問わず、背を擦っていたのと反対の手で、さきの手を包み込んだ。
「…あぁ。…おいで、一緒に行こう」
カカシはさきの手を引いて、優しくベッドから連れ出した。
こんな真夜中に、花に水をやる必要なんてない。
それでも、その行動の意味を、カカシは知っている。
私は無言で、ちょろちょろと右手にもつジョウロで水をやりはじめた。
震える左手を、カカシは、ぎゅうっと強く握ってくれていた。