第3章 Talking Night
両親と彼の死は、私の人生を変えるには十分すぎる出来事だった。
私は、私だけが一人残ってしまった現実から逃れたいがためにもがいた。
死を恐れることもなくなり、自らそれを望むようにもなった。
でも、あやかちゃんがそれを必死に止めてくれた。
私のこの命は、彼女が救ってくれたのだ。
彼女は、一緒に生きようと泣いてくれた。
ひとりじゃない。ひとりにしない。と。
彼女のおかげで、ふたつの大きな死からだんだんと立ち直っていく自分がいた。
でも、同時に、それは赦されないことだと思うようになった。
彼らが生きたかった今を私だけが生きていてはいけない。
私が今を、未来を、生きるということは、両親と彼を“過去”にしているのと同じことだ。
でも、私が死んでしまっても、同じことだ。
前向きに生きたとしても、死を選んだとしても、どちらにしても、私は彼らを無くしてしまう。
それはどうしても許せなかった。
―――――― 私は生きることを選んでいた。
そして、彼が好きな花を育てるようになった。
彼と両親のことを毎朝必ず思い出すように、可愛くもなんともないグリーンのジョウロで命の源である水を与える。
この行動が、両親と彼のいない世界をのうのうと生きてる無力な自分への戒めなのだ。
あの御神木は、彼の最後の場所。
だからそこから離れる訳にもいかなかった。
引越しを提案するあやかちゃんを説得し、平日は毎日、あやかちゃんがうちに来ることを条件として、現在の自営業の生活に至る。