第3章 Talking Night
彼の死は、突然だった。
私が22歳の時、血相を変えた親友が家に駆け込んできたのだ。
私たちのアパートの隣にある寺の境内。
あの御神木の近くで傷だらけになって倒れているところを、住職が発見したようだった。
たまたま私の家に来ることになっていたあやかちゃんが、珍しく自転車で家の近くまで来た時に、住職の慌てふためく声を聞きつけ、怪しく思い、寺へ入ったのだという。
その後駆けつけた救急車に同乗し、急いで病院へ向かったが、酷く変わり果てた彼の姿は、まるで“あの日”を再び経験しているかのようだった。
青く、赤く、腫れた顔
火傷に擦り傷、切り傷だらけの身体
見ていられなかった。
信じたくなかった。
一体何があったの?
でもその血に濡れた左手の薬指に光る結婚指輪だけは、私の得意なハンドメイドがいいのだと強く彼が望んだもので、私とお揃いで作った世界にたった2つだけのそれだった。
自分の左手に光る同じ指輪。
大切だったはずなのに、彼がいないことをまざまざと思い出させるものとなり、私は二度と身につけることが出来なくなった。