第53章 月下美人 *
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「…なんて……出来るわけないでしょーよ」
カカシは、ベッドに横たわって脱力するさきを切なそうに見つめた。
彼女の呼吸は少し乱れ、眉間に薄らと皺を寄せていた。
ふいに開かれる、大きな瞳。
さきは、写輪眼による幻術から少しずつ帰ってきた。
『……え…?』
さきは少しの間ぼうっと天井を見つめていたが、先ほどまで感じていたはずのカカシの指や唇の感覚は勿論のこと、体を突き抜けるような快感の余韻さえも感じられないことに違和感を覚え、ゆらゆらと視線を泳がせた。
そして、自分の隣で肘をついて寝転んでいるカカシと遂に視線が交わった。
夢か、現実か、幻術か、なんなのか。
彼女がよく分からないでいるのは、全身に回った酒のせいでもあるだろう。
カチ、と時計の針が音を立てて進んだ。
さきはその時計を見て、ゆっくりとカカシに視線を戻した後、すべてを理解したかのように小さな声で問いかけた。
『……もしかして、何もしてない…?』
カカシは目を細めて苦笑した。
「…できないよ。“ちゃんと”したいでしょ。」