第53章 月下美人 *
絡まる舌は、酒の所為かいつもよりずっと柔らかく、薄く感じた。
ーーーーーー チュク… チュ…
ヌルヌルと蠢く舌が、ゾクリと体の奥深くに刺さるような甘美な快楽と、僅かな酒の味を一つ残さず絡め取って、更に甘い吐息へと変える。
『んん…ッ』
乱れた息と、少しの声と、薄く響く水の音。それらは情欲を一気に掻き立てて、脳の機能を麻痺させた。
カカシはふと、隙間なく寄せていた身から離れた。
手早く片手でグラスを二つ揃えて持ち、もう片腕で軽々とさきを攫って室内へと入った。
コンッと雑に置かれるグラス。
ドサリと丁寧にベッドの縁に降ろされるさき。
少し戸惑いの色を浮かべる潤んだ瞳がカカシを見上げた。
―――――― 酒の勢いで、"こんなふう"にしていいのだろうか。
麻痺した脳の奥の方での葛藤に、少し苦しくなる互いの胸。
しかし、それすら忘れてしまうくらい、誘惑の色もどんどん濃くなり、また危ないキスの雨を降らせた。