第53章 月下美人 *
少し強引に、本能のままに重ねられる唇。
まるで熟れた果実のみずみずしい果汁を溢れさせないようにする如く、何度も角度を変えて強く強く唇が押し当てられ、濃厚なリップ音が鼓膜を震わせる。
カカシの熱い舌先が歯列を割って口内に容易く侵入した。
『んん…』
後頭部に添えられた手は、その心地よさから逃げ出すことを許さない。
舌を追い、上顎の僅かな凹凸を擦られ、さきの口端からは、最早どちらのものかわからない唾液が滴った。
もう彼此、キスなど1ヶ月はしてなかったと思う。
長い長い任務の間味わうことのなかった久々の快感に、さきもズクズクと溺れていき、縋るように両腕をカカシの首に巻き付けた。
『ぁ、ん…』
一度してしまえば、もう止まらない。どちらからともなくその柔らかい感覚を求めて、更に唇を追いかけた。
唇が離れると、月下美人の強い香りがし、もう一度近付くと、ほのかに酒の香りが混じる。
…ああ、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。
さきはカカシの荒々しくもどこか紳士的な動きをする舌に、ヌルつく自分の舌を絡めた。
更に加わる快感に、カカシがピクリと僅かに眉を顰めた。
それでも尚足りはしないのだと、互いが互いを強請るように、角度を変え、何度も深いキスを繰り返した。
「……そんな風にしてると歯止めきかなくなるよ?」
『…いいよ』
「え?」
『いい。きかなくっても』
忠告の言葉は、これで最後にしよう。
「……知らないよ」