第53章 月下美人 *
「あぁ。さき…咲いてるよ」
『え?…わ…月下美人!』
カカシの長い指の先には、大きく美しい白い花。
月の満ち欠けと連動して咲くこの花は、一年に一回、満月もしくは新月の夜にしか咲かないと言われ、名を「月下美人」という。
(強く艶やかな香りが特徴とは聞いていたけど、こんな香りなのか…)
なにぶん花を育てたことは一度もなかった為、その正体に気付くのがこんなにも遅くなってしまった。
とても短い命の花の為、これはかなり勿体ないことをした。
『こんな香りなんやぁ…咲いてること、もっと早くに気づいてれば…』
さきは、キラキラと月の光が乱反射するすっかり薄くなったアルコール入りのグラスを、両手で包み込む様に持って微笑んだ。
『ふふ 綺麗…』
うっとりと酒と花に酔いしれながら、甘い目元でその花を見つめ、カカシと同じことを思い、それを口にするさきからは、なんとも言えない、女の色香が漂っていた。
「そうだな……月下美人、ね」
先人は上手く名付けたもんだな。
程よくほろ酔いを感じていたカカシは、変に乾きを感じてしまった喉を潤わせるべく、手元のグラスの中にある残り少ないアルコールを、喉を鳴らして一気に体内へと流し込んだ。
『ねぇ、カカシ…』