第53章 月下美人 *
――――――― あー。
私、少し調子に乗りすぎたかな。
◆
「…結構酔ったね、珍しく」
『あは…う~ん、わかる?』
「目がとろんとしてるからね」
飲み始めてからはや数時間。
ほろ酔いを少し通り越したようなさきは、首の方までほんのり赤く染めあげて、蕩けたような目でカカシを見上げた。
2人はテーブルで飲んでいたのを中断し、ベランダへ移動していた。
昼間と違い、ひんやりと肌を撫でるさわやかな夏風に当たりながら飲む酒もまた美味い。
「ま、家だからいいけど」
『家やないと酔わへんよ~』
「ハハ そうだっけ?」
去年の冬の同期との飲み会の帰り、居酒屋を出て間もなく酔いが回ったさきを抱いて帰った出来事は、カカシにとって忘れもしないことだが…ホワンホワンと抑揚をつけて発せられる関西弁には、これっぽっちも説得力がない。
カカシはそんなさきに惚けて笑い、そのまま空を仰ぎ見た。
空には、まるい月と満天の星が輝いていた。
「お、今日は満月か」
『わぁ~ほんまや!…月…綺麗やね』
「…そーだな」
同じ月を、肩を並べて見上げる2人を、上品で甘く、気持ちの良いふんわりとした香りが包み込む。
「そう言えば、ずっと気になってたんだけど…これ、何の香り?」
カカシは、くんと鼻をひくつかせて匂いの元を探った。
さきの匂いでもなければ、自分の匂いでもない。
キョロりと少し周囲を見渡すと、案外簡単にその犯人が目に止まった。