第36章 手合わせ
「ま! 今のはちょっと、オレも焦ったけどね…」
さきが咄嗟に取ったあの一連の動きは、突き技に合わせることの出来る唯一と言っても過言ではない躰道の技だった。
予備動作や無駄のない体捌き。
あの叫び声からして、本人は恐らく、本物の雷切を想像し、ビックリして取った動きだったのだろうが、あの時カカシの目には、さきの姿が突然視界から消え、いきなり下から足の裏だけが顎先の方へ向かって来たように映っていた。
これは、良く雷切を分析していなければ出来ないこと。
カカシは倒れたままのさきに和解の印を結ぶよう手を差し出した。
『やっぱりカカシは強いね…』
「お前も相当強くなったよ…」
互いの人差し指と中指を握手するように重ね合わせ、二人は揃って困ったように笑った。
「雷切のこと、相当分析したんだろ?」
『そりゃカカシの必殺技やもん。 当たり前やろ? それがどうかした?』
「やっぱりねぇ…そうでないと、あんな動きできないよ普通」
『え…?私何も考えてなかったよ??』
「だーかーら、相当オレの技を見てるってことだよ。 突き技はカウンターが命取りになる…ホント……よく勉強してるよ、お前は。」
カカシはそのままさきの手をしっかり握り、ぐっと引き起こして、彼女が立ち上がるのを手伝った。
少し離れたところから、二人の方へ向かってくるのは、カカシの教え子の三人だ。
『ごめんみんな。 やっぱダメやった…』
へへへと笑いかけるさき。
カカシは彼ら三人から、その場ではすっかり悪者のような扱いになってしまった。