第1章 真夏の旅人
「…ま、すぐ、分かればいいんだけどねぇ。 なんせこんな不思議なこと、過去に起きたこと無いだろうから、片っ端から調べなきゃね。」
『私も努力する。手伝うね。』
「そりゃどーも…」
いきなりシュンとしてしまったさき。
あぁ少し言葉選びがまずかったか?とカカシは思った。
きっとこの子なりに不安や心配を抱えているだろうに…
少し申し訳ない気持ちになりながらも、少々ねじ曲がったセリフを重ねてしまう。
その場に数秒の沈黙が流れた。
「…ま、とりあえずさ、お腹すいたでしょ。ご飯食べようよさき」
カカシはさきに向けて、初めて笑顔を向けた。
…うまく笑えただろうか。
するとさきは、パッと顔を上げ、
『うんっ…お腹すいたね。一緒に食べよう』
と柔らかな笑顔で答えた。
…よかった。
既に時計の針は夜の8時を指そうとしていた。
長らく一人暮らしをしていて、忍びとしての忙しい毎日を送っているカカシとしては、今日の夕食は久々にひとりじゃない。
それだけで、さて何を作ろうか、嫌いなものは無いだろうか、と少しばかり面倒な思考を巡らせるこの一瞬も暖かく嬉しいものになった。
『私も手伝うね』
あぁたまにはこんな平和じみたことも悪くないな。
彼女本来の優しさが滲み出たような笑みに、カカシの中にいつぶりかの穏やかな感情が沸き上がっていた。