第1章 真夏の旅人
あの木が生まれたのは木ノ葉隠れの里ができるよりも、ずっと昔。
かつて、あの大樹は周辺に住む一族たちの心の拠り所として大切にされてきたものである。
その大樹は、まるで神のように崇められていた。
大昔の大規模な自然災害では、木々が大樹を残すかのように倒れていたそうな。
人々がそこへ通うと、木は、病を治し、恋路を助け、飢饉を救い、日照りを止め、雨を呼んだという。
その摩訶不思議な言い伝えのなかに、このようなものがある。
「ある夏の夕暮れ時、突然、嵐と共に大樹に一人の旅人訪れけり。 その姿、この国のものにあらず、大きな謎に包まれたり。 その者大層心広く、誠の孤独と愛を知るものなり。 乱世を沈め、生命を救い、眩い光を纏ったその者は、多くの人々より英雄として崇められん。
この言い伝えは随分昔のものじゃが、さき…と言ったな。 さきのその身なり、言葉、そしてお主が話した土地や大樹の前に現れた状況まで、そっくりだとは…思わんか?」
「確かに…」
もし、言い伝え通りならば、夜野さきはこの国にとって大切な英雄になるべくして現れた救世主のような存在、ということなのだろうか…?
カカシはさきを見おろしていた目をほんの少しだけ細めた。