第1章 真夏の旅人
沈黙を破ったのは、さきだった。
訛った口調と敬語を時々織り交ぜ、独特のイントネーションでさき自身の話を始めた。
『わ、わたしは…大阪にある、火ノ寺にいました! 住んでいるアパートが、火ノ寺の隣なんです。 御神木を見に境内へ入って少ししたあと、急に嵐のような風に巻き込まれて、咄嗟に目を閉じました。 次に目を開けた時には、あの場所にいたんです! 嘘じゃないです!信じてください!』
「火ノ寺…確かに火ノ寺は火の国に実在する寺じゃ。 だが、木ノ葉隠れにはない。 お主が神木と言っておるのは、お主がカカシに捕らえられた場所…第三演習場にある最も大きな大樹のことであろう。」
『そう、そうです!あの大きな木!』
「ふむ…若しかすると…いや、そんなことは…」
三代目火影はパイプを何口か吸い込みつつ、ボソボソと独り言を繰り返し、何かを思い出している様子だ。
「火影様、どうしたんです?」
「うむ…カカシよ…お前は聞いたことはないか?」
「…何をです?」
「あの大樹にまつわる古き話じゃ。 言わば神話のように言い伝えられてきた話だが…」
その話はというと、全く信じ難いのだが、彼女と出くわしたあの状況、そしてこの季節や彼女の証言と類似する点が数多く存在する、不思議なものだった。