第5章 波乱の揺れ
「わ、私、廊下に行く?」
「なんで。寒いし風邪引いちまうだろ」
ローと同じ部屋で寝るほうがはるかに身の危険を感じるのだが。絶対ローはわかっていてとぼけている。
しかし逃げ出そうにもドアまでの直線を塞ぐ形でマットレスを敷かれてしまい、身動きがとれない。
(トイレ行きたくなったらどうしよう……)
テントから出るのが怖い。なにせ入り口でローが待ち構えている。
「、トイレ平気か? いつ懐中電灯の電池切れるかわからないし、今のうちに行っといたほうがいいぞ」
見透かしたみたいに言わないでほしい。
しかし実際トイレの心配はあって、意識すると急に行きたくなってしまった。
「……船長さん、セクハラしない?」
「の許可なく触ったりしないって約束しただろ」
(さっきもすぐ破ったもん……)
懐中電灯をつけてそっとテントのジッパーを開けると、案の定、外でローが待ち構えていた。
「ほら、おいで。案内するから」
優しい声で手を差し伸べられて、悪い人だってわかっているのに手を取ってしまう。心臓がきゅうっとして痛い。
からかわれているだけだとわかっているのに、キスされるより、こうしてなんでもない時に気遣ってくれることに戸惑ってしまう。
停電中でも水が流れるのを確かめて、「大丈夫そうだ」とローはを促した。
「せ、船長さんは、あっちにいて」
トイレの前にいられると緊張するから、部屋かリビングに居てほしいと訴えると、斜め上の返事が返ってきた。
「キスしていいか?」
なんでそうなる。
「を可愛いなって思うとキスしたくなる」
説明しなくていい。ツッコめずにいると「ん?」と顔をのぞきこまれる。ここで気持ちを強く持たなきゃダメだと、は一生懸命拒否した。
「だ、だめ」
「ほっぺならいいか?」
「だめ」
「じゃあ、おでこ」
おでこくらいなら。それで満足してくれるなら。しかしロー相手に許可を出すと、どう悪用されるかわからない。
困っていたらおでこにキスされた。
「いいって言ってないのに……!」
「3秒すぎたらYESだろ。3秒ルール」
3秒ルールって絶対そういうことじゃない。抗議したいが、ローは「ん?」と何も間違ってないと不思議そうだ。