第5章 波乱の揺れ
「どうした。のどが乾いた? それとも一人で心細くなったか?」
声は優しいし微笑んでもいた。だけど悪魔が人を騙すときの笑顔にしか見えず、飛び上がるとは一目散にテントに逃げ込んだ。
気配を消すために懐中電灯の明かりも消して、毛布にくるまってクッションをかぶる。
気分は昔見た恐竜のパニック映画の子役だった。肉食恐竜に追いかけ回され、必死で隠れて息を殺す、あんな感じ。
ローはゆっくりとを追いかけ、開けっ放しのドアをノックした。
「。入っていいか?」
恐竜が話しかけてきたら無視するのと返事をするのとどっちが正解なんだろう?
両手で口を押さえながらは混乱していた。映画の恐竜は喋らなかったので正解がわからない。
「寝てる? じゃあ入っていいよな」
「だめ!」
思わず返事をしてしまった。ローが笑ってる気配がする。ひどい悪魔だ。完全にローのペースだった。
「この部屋、一応コラさんの書斎なんだけど、受験中は俺が勉強するのに使わせてもらってた。休憩したり仮眠するのに折りたたみのマットレス買ってくれて、クローゼットに入ってるんだ。俺もそろそろ疲れたから、寝る準備していいか?」
(ここで……!?)
ローがまさか同じ部屋で休むつもりでいたなんて思っていなくてはうろたえた。子ヤギと狼を一晩一緒の小屋で寝かせたい、みたいな無理難題としか思えない。
しかし連れてきてもらったに拒否権がある訳もなく、いつもローがここで休んでいたならダメとは言えない。
困り果てるに「悪いな」と言って、ローは楽しそうに寝る支度を始めた。ちなみにコラソンがマットレスを買ってくれたのは事実だが、出すのもしまうのも面倒くさいのでローはほとんど使ったことがない。仮眠するだけならリビングのソファで事足りるし、夜はラミが一人にならないよう、コラソンの家でも泊まることはないからだ。
そんなことは知らないは、部屋は広いのにテントの前にマットレスを敷かれて震え上がった。