第5章 波乱の揺れ
(これは、さすがにコラさんでも……)
見せたくない――と無意識に、けれどとても強くローは思った。普段からは特別可愛いが、今はさらに2割増しで可愛く見える。人目にさらすのを本能的に忌避するレベルだ。
(どうしようかな……)
とはいえさすがにリビングに連れて行かない訳にもいかない。
「遅くなってごめんね。お風呂の掃除したら思ったより時間かかっちゃった」
ローの機嫌が悪いのを察して、は先回りして謝る。そこじゃないので、ローはかがむとの耳朶に柔らかく噛み付いた。
「……!? ……!! ……!?!? ……!! ……!?」
リビングからのランタンの光しかない薄暗い廊下でもハッキリわかるくらい、は動揺してうろたえた。状況が飲み込めずに硬直して、白昼夢だろうかとばかりに噛まれた耳に恐る恐る触れる。
反応があまりにも可愛いので、ローは気づいたら彼女の唇にもキスしていた。が呆然として身動き取れずにいるのをいいことに、抱きしめて柔らかい唇をついばむ。
の体は小さくて細くていい匂いがした。守らなければいけないと強く思ったし、守りたいと自然に抱きしめていた。
「な、なんで……?」
対するはびっくりして混乱して困惑していた。無理もない。
返答を間違えたら泣かれて拒絶されて二度と会ってくれなくなると理解しながら、不思議とローは焦る気持ちにならなかった。
「……なんとなく?」
疑問形で返すと予想外の反応だったのか、「な、なんとなく……?」とは理解できずに固まった。
「可愛いなと思ったら体が動いてた。みたいな」
本当のことなので正直に言うと、は呆然としていた。怒ればいいのか悲しめばいいのかわからず、混乱して口をパクパクさせている。
「可愛いからもう一回してもいいか?」
かがんで顔をのぞきこむと、「だ、だめ」と逃げられた。ようやく実感が追いついてきたのか唇を押さえて真っ赤になって、この場で押し倒しても許されるんじゃないかという気分になってきた。
どう考えても全部が可愛いのが悪いと思う。