第5章 波乱の揺れ
「そういうことじゃない。ゆっくり入ってくれ。急がなくていい」
戸惑うの気配に、なるべく浴室のドアに近寄って本音を言う。
「急に顔が見たくなって、会いたくなったから言っただけだ。急かしたかったわけじゃない」
の反応は言語化できない変な声だった。猫がしっぽを踏まれた時に似ているかも知れない。
「……船長さんは本当に女たらしの悪い人だと思う」
消え入りそうな声に、ますます顔が見たくなる。
「どうした? 声熱っぽいぞ? のぼせたか? 身動きできない?」
何なら今すぐ助けに行くとばかりにローが意地悪く声をかけると、「平気!」と焦って怒った声がした。からかうのが楽しい。程々にしないと嫌われると十分わかっているのだが。
「がのぼせないように、ここで見張ってようか」
「やー! 出れなくなっちゃう……」
最後のほうはぶくぶくぶく、とお湯に声が消えていった。
冗談だと笑って、「ゆっくり温まってくれ」と声をかけ、ローは脱衣所を出た。