第5章 波乱の揺れ
(嫌われたかな……)
一緒に入れば、と言われた時の怯えた目を思い出すと切ない。日常的に初対面の女の子と風呂に入ってるような奴だと思われたんだろうか。
「……ロー、お前さ。さっきはああ言ってたけど、ちゃんのことかなり好きだろ」
さっき地雷を盛大に踏み抜いて色々木っ端微塵にしてくれたのに、コラソンはニヤニヤとうるさい。白髪と言って数本髪の毛むしってやろうかと本気で思った。
ローの怒りオーラを察して、コラソンはびびり始めた。「そうだちゃんの着替えがいるよな」とそそくさと寝室に消える。
春とはいえ雨のせいか肌寒いので、ローは温かいものでも淹れようとキッチンに行った。勝手知ったるなんとやらだ。
「ロー、ちゃんの着替えこれでいいかな?」
ヤカンを火にかけたところで、コラソンが新品のTシャツとトレーナーを持ってきた。
Tシャツは音楽フェスで買ったもの、トレーナーは同僚からのお土産だそうだ。
Tシャツはともかく、トレーナーにはでかでかと『生まれついてのドジっ子です』のプリントがされていた。コラソンのためにあるようなトレーナーだ。
しかもにはだいぶサイズが大きい。
「新品がこれしかなかったんだけど嫌かな」
コラソンは不安そうだ。しかしが嫌がっても代わりを買いに行く余裕はないのだ。我慢して着てもらうしかないだろう。せっかく用意してもらったものに文句をいう子ではないし、大丈夫だと思う。
「というか、懐かしいなこのフェスT。まだ着ないで取ってたんだ」
ローも誘われて一緒に行った記憶がある。コラソンは流行に敏感で、流行り物にはとりあえず乗ってみる性格だ。あの頃は確か、やたら音楽フェスがはやっていたような気がする。
「いや、しまい込んで忘れてただけ」
そんなことだろうと思った。LED式のランタンもキャンプがはやったときに揃えた道具の一つのはずだ。
コラソンの仕事は数ヶ月の出張としばらくの休みというサイクルを繰り返すので、休みの間に色々しようと手を出すらしい。でも大体、長続きしない。