第5章 波乱の揺れ
「お兄ちゃんはね、本当は実のお兄ちゃんじゃなくてイトコなんだけど、お母さん同士が双子だから遺伝的には半分血がつながってるのと同じで、だからもうお兄ちゃんでいいよねって。お兄ちゃんはサッカーが得意で、プロにもなれるって言われてたんだけど、お父さんと仲が悪くて、そのせいで一時期荒れてて、今は白ひげのおじいちゃんのことを『親父』って呼んでるの。将来はサッカー選手じゃなくて、土建屋さんになるんだって」
兄のことを語るは嬉しそうだった。大好きオーラが大放出で、なんとなく、ローは面白くない。
「……白ひげって、『白ひげ建設』の?」
心当たりがあるらしいコラソンに、は「そう!」と頷いた。
「コラさん、白ひげのおじいちゃん知ってるの?」
「知ってるよ。有名人だからね」
苦笑しながら言うコラソンに、仕事がらみかな、とローは当たりはつけ小声で尋ねた。
「……そっち系?」
「ああ、まあ……戦後最大って言われた『白ひげ組』が前身だ。最近は大人しく建設業に従事してるけど、『おじいちゃん』の号令一つで暴動が起きかねない、日本で一番結束力の高い組織だって言われてる」
ちなみにコラソンの仕事は公僕だった。危険な組織の監視が任務の公安警察。普段のドジっ子ぶりを見ていると、ちゃんと務まるのだろうかと心配されがちだが、仕事ではそこそこ優秀らしい。
「ちゃんには黙っとけよ。一応もうヤクザ稼業からは足洗ってんだし。不安にさせることない」
「わかってるよ……」
はまだ嬉しそうにお兄ちゃんについて語っている。好きな食べ物から、一緒に遊びに行った思い出まで。なんだか彼氏のノロケ話を聞かされているみたいで面白くない。
「お前、顔に出すぎ」
コラソンに笑いながら肩を叩かれてローは憮然とする。そういうコラソンは妙に嬉しそうだった。
「お前に女の子紹介されたの初めてだからな」
見透かしたように彼はおおらかに笑う。敵わないな、とローも笑った。