第5章 波乱の揺れ
恐怖心を覚えるほどけたたましく、付近の人間のスマホが一斉に鳴り始めた。
「なんだ?」
「緊急地震速報!」
画面を確かめる余裕もなく、次の瞬間、大きく揺れた。商品が崩れ、何かが割れる音、悲鳴が響く。
とっさにローはの頭を抱え込んだ。すさまじい揺れで立っていられず、頭上の蛍光灯さえ割れて降ってきそうだ。
数十秒の揺れのあと、一斉に電気が消えた。また悲鳴が上がる。びくりとの体も震えたのがわかった。
非常灯の明かりだけがポツポツと足元を照らしており、付近は真っ暗だ。揺れはひとまず収まったが、すぐに動くのは危険に思えた。
「、大丈夫か?」
ぎゅっと手を握りあわせては震えていた。暗くて表情は見えないが、泣くのを必死にこらえるようだ。
のスマホがまた鳴った。「おばあちゃん」の表示には飛びつき、お互いに安否確認をする。
(今日はラミもお袋も家にいたはずだ……)
ローも家に連絡しようとしたが、つながらなかった。回線がパンクしてしまっているようだ。
とりあえずメッセージだけ送って、家族のことは横に置く。
「船長さん、おばあちゃんが代わってって……」
「もしもし?」
からスマホを受け取って応答すると、『船長さん?』と固い声が聞こえた。猫を見に行った時に会った、の祖母の声だ。あの時はほがらかな老女という印象だったが、今日はすっかり声がこわばっている。
『S駅のそばにいるのね? 電車、止まってしまったようだけど、ちゃんのそばにいてあげて欲しいの。出来たらタクシーを捕まえて一緒に帰ってきて。お金は払うから』
ひどくを心配しているようだった。手探りで彼女を手を握りながら、ローはもちろん、と請け負う。
「必ず家まで送り届ける」
『……お願いね。ちゃん、去年H県の地震を経験してるの。その時に、地震でお母さん亡くしてるのよ』
絶句するローに『お願い』と重ねて頼んで、通話は切れた。