第1章 身投げじゃなくて
「別に手当たり次第に寝てたわけじゃ……」
否定しようとしたローは、「ウソだろ」と言わんばかりのシャチとペンギンの顔に黙った。
自分としてはそこまでひどいつもりはなかったが、世間一般で言うとどうも違うらしい。そういえばラミの態度がやたらときつくなったのもここ半年くらいで、まさかと一抹の不安がよぎる。
「……そんなに感じ悪かったか?」
別人みたいにしおらしい悪友の態度に、困ったように3人は顔を見合わせた。
否定するより正直に答えたほうが誠実だと思ったのか、三者三様にうなずく。
「正直、刺されればいいのにと思ったことも何度か」
「女の子からの連絡、全部着拒してたでしょ。あれはさすがにひどいと思ったよ」
「モテるからっていい気になりやがってこの野郎と思ってました」
正直な本音はありがたかったが、完全にローを打ちのめした。
黙って顔を覆う彼に、ペンギン、ベポ、シャチの3人は慌てる。
「え、本当に自覚なかったんですか」
「悪意なかったの? 本当に?」
「素でそんなひどいことしてたんですか」
トドメの一撃に、ペンギンとベポは慌ててシャチの口をふさいだ。
ローは顔を覆ったまま、微動だにしない。
ベポが心配して「大丈夫?」と声をかけた。
顔を上げたローはげっそりとしていた。
「受験のストレスの息抜きのつもりだった……」
全国模試でも常に上位だった男の言葉とは思えず、半信半疑で3人はローを見たが、付き合いの長さから本音だとわかり、少なからず呆れてしまった。
「キャプテン。『息抜き』の相手の名前、ちゃんと覚えてる……?」
バツが悪そうにローはベポから視線をそらした。ほとんど覚えてないんだな、と彼らは察する。
「ストレスってそんな、失敗してもエスカレーターで付属の大学行けたのに」
ペンギンの言葉は事実だが、ローには理解不能だった。外部受験をすると決めた時、ローにはもう『本命に受かる』以外の選択肢はないも同じだった。
失敗しても保険があるなんて考えで受かるとは思っていなかったし、そんな甘えた覚悟なら外部受験なんかするなと親にも釘を差されていたのだ。