第2章 猫を見に行こう
「おばあちゃんです。ええと、ペンギンと、シャチと、ベポと、船長さん」
「船長さん?」
「……トラファルガー・ローだ」
不思議そうに繰り返した老女に、ローは名乗り、を見た。
「……名前忘れたのか?」
「そ、そんなことないよ。ローさん」
ちょっとばつが悪そうなのは図星だからじゃなかろうか。
(まあ、俺だけ連絡先交換してないしな……)
ローだけ会うのは3回目なのだが、最初はお互い名乗らなかったし仕方ない。
老女は上品に頬に手をそえて、聞き覚えのある名字に首をひねった。
「トラファルガーって、駅近の大きな病院と同じね。珍しい名字だと思ったのに」
「ねー」
は頷いたが、ローがそこの息子だとは言わなかった。単に忘れてるだけかも知れない。
盆を置いてすぐに下がった祖母を見送り、ローは低い声で言い含めた。
「学校に行く途中で毎日同じ名字を見るんだから、もう忘れないだろ」
「わ、忘れてないよ?」
はあくまで言い張るが、やっぱりどこか気まずそうだ。
「はい、コーヒー」
誤魔化すようには手渡した。
「ああ、ありがとう」
「みんなはお茶でいいんだよね?」
「ありがとー!」
グラスを渡すと、は上機嫌で縁側に座った。
「猫ちゃん可愛いでしょ」
「うん。名前は?」
「まだ付けてないの。里親さんが見つかったら引き渡さなきゃいけないし。名前つけるとお別れ辛くなっちゃうから」
小さな猫はに気づくとみーみーと小さな声で鳴いた。ローたちには怯えているようで、の庇護を求めて必死に鳴いている。
ダンボールの中から子猫を出して、は胸に抱いた。見てるだけで癒やされる光景だった。