第2章 猫を見に行こう
「とぼけても無駄だよ。お兄ちゃんのせいで、私何回も上級生に呼び出しくらったんだよ」
まさかの話にローはぎょっとした。噂が入ることを懸念して、ラミと同じ高校、もしくはその卒業生には手を出していない。カマをかけてるだけだと思うものの、女同士の交友関係がどこまで広いかも確信が持てず、居心地悪くローは妹の顔を見つめた。
そんなローの様子に、ラミは深くため息をついた。
「言っておくけど、お兄ちゃんは自分で思ってるほど完璧じゃないからね」
「別に完璧だなんて思ってない」
ラミが何を言いたいのかはわからないが、これは本音だ。
「何の用で呼び出されたって?」
「……本当に呼び出されたのは一回だけ。他校の友達が妊娠したから、お兄ちゃんの連絡先が知りたいって」
唖然とするローに、ラミは「やっぱり思い当たる節あるんだ」と呆れて言った。
「お前、それで何て返したんだ」
「お兄ちゃんが避妊しない訳ないもん。連絡とりたいなら、ちゃんと父親の証明書持ってきてって。そうしたら親にもちゃんと話すし、弁護士つけて話しあいしましょうって追い払ったよ。それから音沙汰ないから、多分狂言だったんだと思う」
妹の機転に感心するやら感謝するやら。顔を覆ってローは「悪かったな」と心から詫びた。
「まったくだよ。言っておくけど、お兄ちゃん、いま一部ですごく評判悪いからね? ヤり捨てされた女の人たちがボロクソに言って、お兄ちゃんのこと気に入らない人たちが尾ひれつけて広めてるの。いい迷惑だよ」
ラミの言い方はこざっぱりしたものだった。上級生からの呼び出しなんて普通は怖いだろうに、気にした様子もない。
ローのほうがうろたえ、キリキリと胃が痛んだ。
「……大丈夫? お兄ちゃん、顔真っ青だよ」
「豚骨にやられたのかもな」
変な意地でラーメンのせいにして、ローは胃薬を流し込んだ。