第2章 花客
死する前線から少し離れると、時間の流れは酷く遅く感じる。
束の間の平穏に身を任せれば良いのかも知れないが、壁一つ向こうでは昼夜問わず隊士の行き来は変わらず激しい。
そんな中で、一人ゆっくりと過ごすと言うのは何とも苦痛なもので、もどかしくてもどかしくて、仕方が無い。私も、一刻も早く柱の皆様のように強くなりたいと、日の照らす時刻には誓っていたのに。
すっかりその加護が失せた現時刻夕食を終えた頃ともなれば、焦燥感ばかりが胸を締め付ける。その上、ずっと部屋に閉じこもってばかりいると相応に気が滅入る訳で、何度目かの溜息を吐き出す。
逃げ出し防止の格子のついた窓から外を眺め、昨日まで恐ろしかった夜の外がこんなにも恋しいとは。
「 茗さん、茗さん、 」
外界へと想いを馳せていると扉越しに女の子の声が聞こえた。この声は、
「 こんばんは、アオイさん。 」
「 こんばんは、茗さん。しのぶ様は手が離せないので、私が代わりに問診へ伺いました。 」
「 わ、こんな時間に態々すみません。えっと、私の方は、特に変わった事はないと思います。 」
「 ふむ、…そうですか。それなら安心しました。あなたとは歳も近いので、少し、親近感と言うか、心配で。 」
「 内容が内容だけに、ですよね。 」
困ったような笑い声を静かに洩らすが、こんな時こそこうして誰かと過ごせると言うだけで、救われたような気持ちを覚えつつ、そんな和やかな雰囲気を一蹴するかのように遠くから此方へ近付く騒音に二人して廊下を見遣る。