第2章 花客
大きな瞳は慈愛を以て見詰めてくれる。
———— と言う、都合の良い錯覚を覚えただけで、ペタペタと触れられる頬への手で、観察されている事が分かる。
まるで、初めて家にやってきた仔猫に対するそれのようだが、今はそんな事に気を配る余裕はない。
何故、炎柱様が此処に居るのか、そんな疑問を言外に、じい、と見詰めれば、ふ、と柔らかな笑みを零される。
次の瞬間には、視界は高く抱き上げられてしまっていた訳で、目を白黒させ、頭の中は考える事を放棄する寸前。
なに、なんですか、と、投げ掛けた疑問はものの見事に回答を得られず、代わりに、
「 うむ。実に、芳しい花の香だ。蜜を求める虫の気持ちも、分からなくはないな。 」
周囲を置いてけぼりにして一人納得する炎柱様は、この場に於いてはなんだか異質で、ずんずんと進みゆく足は明らかな意思を持っているのだから、誰も止める事は出来ず、それが至極当然であるかのようにして、私は与えられたあの空間から意図も容易く連れ去られてしまった。