第2章 花客
二人きりとなってしまったこの空間、看護婦さんに頼んでくださったようで、熱い煎茶と共に恋柱様の桜餅を頂く。
「 わあ、美味しいです。 」
「 ふふ、でしょう?伊黒さんが教えてくれたの、ここの桜餅が美味しいって。 」
「 噂通り、蛇柱様と恋柱様は、仲が宜しいんですね。 」
「 えっ?!や、やだ、そんな噂が?んん、恥ずかしい…、 」
つぼみが綻ぶような愛らしさに惹かれない男性は居ないだろう、と思う程に、恋する乙女とは誠可愛らしいものであることを自覚する瞬間。
真っ赤に頬を染め上げ恥じらう姿は、正しく名に相応しい甘さを秘めていた。
冷徹と陰湿を備える事で有名な蛇柱様が心揺らがせられるのも想像に易い。
斯様な事態でなければ、接する事も意識する事も無かったとはいえ、生まれてから幾年、色恋には無頓着だった所為か擽ったい気持ちになってしまう。同時に、少しの羨望。と言うのも、如何せん、色恋と言うものには縁の遠いものだった為。失う恐怖が勝るのも大抵の入隊動機を考えれば相応なもので、誰かを守るには未熟過ぎる私にとっては、恋や愛と言うのは遠い未来の少しの希望。いつか、を夢見て、今は日々来る任務に勤しむのが精一杯だった。
それは別段悲しい話でも無く、鬼殺と言う意志を掲げる以上、恋愛と言うものに接する機会がない、と言うだけ。意識する事自体に臆病になってしまっているのかも知れないが、俗世的な言葉で言うなら、社内恋愛が実現する事のは中々に稀有な事。
勿論、共に切磋琢磨した友人と呼べる子の一人も同じく隊士と婚姻関係を結んだ事例もあるのだから、無きにしも非ずなのだが
———— 何にせよ、今に必死過ぎて、恋愛を考える余裕がなかったのは、事実である。とは言え、私も人の子。人並みには、先程の様に異性と接する事があれば、羞恥を感じたりする訳だが、そんな補足はさておき。