第3章 赤い髪の少年と鬼の少女
12年後
「やめてくれ!助け……っ」
『さよなら。二度と生きて戻ってこないでね』
下ろした刀は正確に鬼の首を斬りつけ、真っ二つに分かれた。
鬼が消えたのを確認し、気を失っている少女の無事を確認すると、抱き上げ、家に返すべく足を進めた。
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「おかえり、芳華。どうだった?」
ある部屋の前庭に降り立つと同時に、その声がかかった。その声に縁側に座りながら応える。
『大したことはなかったよ。こちらは十二鬼月でもなかったもの。ただ稀血の人間ばかりを狙って喰ってたみたいだから、普通の鬼よりは力があったってだけ』
「拐われた少女と私の剣士(コドモ)たちは」
『助けられたのは今夜拐われた子だけ。あとはみんな喰われた後だった』
「そうか。拐われた子に藤の花の香り袋は渡してくれたかい?」
『もちろん。ご両親にも説明しておいたよ』
「ありがとう、芳華。それと一つ頼みがあるんだ」
『ん?』
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『わかった』
「ありがとう。今日はもう遅い。ゆっくり休んでくれ」
『御意』
産屋敷邸を後にすると、誰にも見つからないように自分の屋敷へと足を進める。
あぁ、また助けられなかった。
どうしてこんなに無力なのだろう。あの時と何も変わりはしない。一人助けられたところで「よかったね」なんて思えない。無力のままじゃ、弟の時と同じことが起きてしまう。
『強く、なりたい』
今以上に強くなりたい。鬼を、無惨を殺すためにもっともっと……っ!!
強く握った手のひらからは、血がにじみ出ていた。
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『ただいま、宵』
「オカエリッ、ホウカ!」
鎹鴉の宵(ショウ)にそれだけ伝えると、ベッドに横になり、目を閉じた。
その日見た夢には、髪と目が赤い少年と、箱に入った優しい目をした少女が現れた。
目を開けると、既に日が昇っていた。
あの2人……かな。お兄ちゃんの方は鬼殺隊の隊服を着てたし。今どこにいるかな。
意識を研ぎ澄ますと、すでにその場にいるのがわかった。
『行くか』
他の誰でもない、あの人の頼みだし。たまにはあの二人の顔も見たいし。
隊服に着替えると、彼らがいる産屋敷邸へと向かった。