第2章 あの日
『はぁっ、はぁ……っ、誰か……っ』
誰か助けて。弟を助けて、お願い。あいつが来てしまう前に。
ボロボロの体で弟を背負い、麓の町へと足を動かす。
「くくくっ、逃げても無駄だ。お前の血は匂いですぐわかる」
『……っ!!』
目の前に現れた血だらけの鬼。その口で両親と兄姉を喰らったのだ。
「おね……ちゃ……っ」
『くっ……』
早く弟を医者に診せないと。絶対に死なせない。でも、でも……っ
「その後ろの子供には興味ねぇ。邪魔だ」
鬼が消えた。次の瞬間、背中が軽くなって、そこにいたはずの弟がいなくなった。
『……っ、いやぁぁぁ!!』
弟は血だらけだった。もう息もしてない。鬼は弟の屍をゴミのように投げ捨てた。
それを見た瞬間、私の中で何かが切れた。
その後のことは覚えてない。気づいた時には鬼はぐちゃぐちゃで、私は全身が血まみれだった。朝日が昇って、鬼は燃えて消えてしまった。
それを見て、私は気を失った。