第6章 お出かけ
先導された部屋には四着の着物が用意されていた。藤色、乾鮭(カラサケ)色、葡萄茶(エビチャ)色、青紫色のそれらは、それぞれ藤の花と明時の花を使って染められた着物だ。本来であれば呉服屋に頼むことではないが、無理言ってお願いしたのだ。
彰「どうでしょうか?」
『予想以上です。とっても綺麗』
扱いの難しい明時の花を使ったため、上手く色が出ないかもしれないと思っていたが杞憂だったようだ。手に取ってみても、品質も色も最高級。やはりここに頼んでよかったと思った。
彰「満足いただけたようで何よりですわ」
『無理を言ってすみませんでした。でも、ここに頼んでよかった』
彰「そう言っていただけるとこちらとしても嬉しい限りですわ。でも、まさかあの花からこのような美しい色ができるなんて思いもしませんでした」
『確かに、明時の花の特徴の一つは花びらの色が段階的に変わっていることですからね』
青と赤を混ぜると紫になるように、個々の色が混ざり合えば美しい別の色へと変わる。しかし、何種類もの別の色が混ざり合えば、美しい色から遠ざかる。上手く調和してくれたようでよかった。
『鬼避け効果もしっかりしてますね』
今回の件で何より難しかったのは「鬼避け効果を持続させつつ、解毒する」ことだった。
明時の花はそのものが猛毒であり、鬼避けである。しかし、人体にも影響のある花のため、そのまま染料にしてしまうと肌に触れた場所から毒が入り込み、あっという間に全身に回り死んでしまう。
そこで思いついたのが、彼岸花の毒抜きである。彼岸花は球根の外側を覆っている黒い皮を剥ぎ、丹念にすりつぶした後、水でよく洗い、最低7回以上流水にさらすと数日間で毒が流れる。その後、鍋で煮込み、天日干しにしてよく乾燥させて粉状にする。
そうして精製されたヒガンバナの球根は、「石蒜(セキサン)」という名の漢方薬として利用されるのだ。まさに「毒と薬は表裏一体」である。
花と球根で違うが、物は試しということでやってみた。
方法?めんどくさいから、省略.......
で、結果。
なんと、成功しちゃったのです!!
作った本人に似たのか、図太く頑固な花であったがために、水にさらしてもお湯にさらしてもまるで色が落ちない。なのに、綺麗に毒素だけ抜けてくれる。どうやら水に溶けやすい毒だったらしい。