第5章 無限列車
炭「芳華さん!!」
『遅くなってごめんね。もう大丈夫だから』
咄嗟に炎柱を背に庇い、猗窩座の腕を切り落した。首を落とせればよかったんだけど、それだと炎柱が助からなかった。私がきた理由は、ここにいる者を誰も死なせないこと。
彼を、煉獄杏寿郎を生きて返すこと。
絶対に誰も死なせない。必ず守ってみせる!
久方ぶりに見る顔を見据えると、あちらはいつもの様に恍惚とした顔で私を見てきた。
猗「芳華か!やはり強いな!!杏寿郎よりも、これまで殺してきた柱よりも遥かに強い!!」
『あー、はいはい。もう聞き飽きたよ、それ』
会う度会う度に、鬼になれと勧めてくるあいつ。私に送り込まれてくる回数が最も多い上弦だ。
猗「なぜ鬼にならない!?あの方に望まれていながら、なぜそう拒む!!お前ほどの力を持っていながら、このまま死んでいくだけとは!!」
『いつもいつも同じことを言わせないで。私は鬼舞辻の道具になる気はない。老いて死するのが人間。だからこそ美しい。短き命だからこそ、大切なものに気づくことができる』
視線は前に据えながら、意識を後ろの炎柱へと向ける。
左目と骨がやられてるか。今優先すべきは炎柱を後ろに避難させることだな。とりあえず、猗窩座を離すか。
―暁の呼吸 拾弐の型 早暁の蜃―
できるだけみんなから離れた場所へと誘導しながら、戦いを繰り返す。再生を遅らせるように次から次へと攻撃を仕掛けると、あれほど余裕そうだった猗窩座の顔に焦りが浮かんできた。
とりあえず、炎柱の傷だけ治せる時間があればいい。もうすぐ朝日が昇るから、それまで持てばいい。首を落とすのはまた今度でいいわ。どうせまた来るんだろうし。
―暁の呼吸 肆の型 暗香暁影―
猗「くっ.......」
猗窩座が苦しそうな表情で動きを止めた。おそらく毒が効いてきたのだろう。
あと、もう一押し。
―暁の呼吸 漆の型 烟天縹渺―
一瞬にして靄が立ちこめる。猗窩座が叫びながらウロウロとしている間に炎柱の元へと急ぐ。
何度も戦っている相手だ。こっちが向こうの戦いのやり方を知っている分、向こうもこちらのやり方を知っている。毒も効きにくくなっていく。とにかく時間が無い。